【リコール偽造署名問題】「維新が組織としてこのリコール運動に関与したことはありません」維新・音喜多議員の発言から実態をファクトチェックしてみました



日本維新の会東京都選出の音喜多駿議員が同党と愛知県知事リコール運動について関係を否定していますが、実際はどのような関係があったのか、ファクトチェックしてみます。


【前記事】【リコール偽造署名問題】高須院長会見と河村市長発言から浮かび上がる齟齬、そして明かされない疑問をまとめてみました | Your News Online

音喜多議員はリコール偽造署名問題について、2月22日の高須院長の会見を受けて23日に以下のようにツイート。

お問い合わせをいただいておりますが、維新が組織としてこのリコール運動に関与したことはありません。しかしながら、事務局に関係者がいたという指摘もあり、全容の解明を私からも強く求めております。勿論、不正行為は絶対に許されない暴挙です。


この件について既に維新に対して問い合わせがあることを明らかにした上で「維新が組織としてこのリコール運動に関与したことはありません」と断言しています。

同時に「事務局に関係者がいたという指摘もあり、全容の解明を私からも強く求めております」としていますが、この問題と維新の会にはどのようなつながりがあるのか、経緯を含めて振り返ってみましょう。

なお、ここで重要なのは「リコール偽造署名問題」ではなく「リコール運動」そのものに関与していないと明言しているところ。

◆リコール事務局長は維新の会の選挙区支部長であり衆院選候補予定者
Buzzap!では繰り返し指摘してきたように、リコール運動の田中孝博事務局長は過去に愛知県議会議員を2期務めた経験を持ち、現在は維新の会愛知県第5区選挙区支部長であり、日本維新の会から次期衆院選への立候補を予定している人物


音喜多議員は「事務局に関係者がいた」と表現していますが、田中事務局長は事務局という実働部隊の名実ともにトップであり、高須院長も「リコールの会事務局には事務局長以外の幹部なんかいません」と断言しているように、実務部隊では唯一無二の中核を担う存在です。

高須院長は会見で田中事務局長について「事務局長を信じます。事務局長を信じないで組織は動きません。何で信じるかというと、河村市長が紹介した人材なんです」と述べて全幅の信頼を明らかにすると同時に、河村市長の紹介であることも明言。

田中事務局長は2019年には河村市長が党首を務める減税日本公認候補として愛知県議会選挙に立候補(落選)しており、選挙公報には「河村市政と愛知県政をつなぐ男」「河村たかし猛烈応援!」の文字が踊っています。


つまり、田中事務局長は河村市長に近く愛知県政に詳しい上に、維新の会にも所属している今回のリコール運動のハブ的な存在ということになります。

ただ単に「事務局に関係者がいた」というような、「事務局の大勢のスタッフ中に維新に絡む誰かがたまたま紛れ込んでいた」という話ではまったくありません。

◆減税日本と維新の会の5年に渡る選挙協力
さて、リコール運動の「応援団長」でもある河村市長の率いる地域政党減税日本と維新の会には強い協力関係があります。

2019年の参院選では、日本維新の会と減税日本は共同で新人候補の岬麻紀氏を擁立しています。岬氏は田中事務局長と並んで愛知県の所属議員一覧に「選挙区支部長」と掲載されています。



岬氏の立候補の際の選管への届け出政党は減税が維新の求めに応じて「維新」となったものの、根強い河村市長人気を生かすために選挙ポスターは岬氏と河村市長のツーショットです。


蛇足となりますが、岬氏もあいちトリエンナーレの問題に強い不快感を示し、高須院長と河村市長の写真をFacebookに掲載しています。


なお2016年の参院選でも減税日本はおおさか維新の会(当時)と共同で奥田香代候補を擁立しており、この際は届け出政党は減税日本でした。

中日新聞はこの記事の中で今回も河村市長は当初、減税で届け出るつもりだったが、維新の下地幹郎衆院議員や愛知の維新関係者が説得した。本拠地の大阪以外に勢力を広げたい維新。愛知選挙区の候補の看板を維新にし、比例票発掘につなげる思惑もあったと、維新の愛知への勢力拡大の意図があったことを指摘しています。


このように、少なくとも河村市長の減税日本と維新の会の間には選挙協力という明確な形で最低5年に渡る強い繫がりがあることが分かります。

地域政党の党首が、選挙協力関係にある政党の選挙区支部長であり予定候補である人物を、「首長のリコール運動の事務局長」という重要ポストに紹介するにあたり、相手政党に何の了解も、確認も取っていないというのは相当に無理筋な話となります。

◆吉村大阪府知事の高須院長への熱烈な「応援」
一方で、維新の会副代表の吉村大阪府知事は高須院長を「高須先生」と呼び、高須院長も吉村府知事を「盟友」と呼ぶ間柄なのはツイッターユーザーには有名な話。2019年に吉村知事は「高須先生の枕をゲットした、なう」と大喜びの動画もアップしています。


2020年6月1日にはリコールの会発足会見に誘われ、公務のため出席できないとしながらもリコールは簡単にはいかないと思いますが、応援してます、なう。行政が税金であの『表現の不自由展』はさすがにおかしいですよねと応援を明言。


10月12日には高須院長からのエールに「YES!高須先生!今日から大阪では都構想の住民投票が始まりました。最後まで頑張ります。高須先生も最後まで頑張って下さい!」と返答しています。


音喜多議員は6月3日の維新の会代表の松井一郎大阪市長が愛知の人が判断するべきだ。知事が旗を振るのは違うと吉村知事をたしなめた記事を証拠として掲載していますが、当然ながらこれだけで組織的関与を完全否定できるわけではありません。

当時副代表だった吉村大阪府知事がリコール運動への応援を明言し、その後もエールを送っていることは事実であり、「維新の選挙区支部長の予定候補が選挙協力関係にある河村市長の紹介でリコール運動の事務局長を務めている」という事実も消えることはありません。

◆ネットで指摘される「選挙カー」流用疑惑
またネット上では維新の会の選挙カーがリコール運動の街宣車としてそのまま用いられていたのではないかとする指摘が画像付きでささやかれています。


当該画像では名古屋ナンバーのホンダの軽が映っており、いずれも同ナンバーでリコール運動の街宣車と維新の選挙カーとして利用されているように見えます。変わっているのは上部のバナーのみで後はすべて同じ。

「む」ナンバーのためレンタカーではないと推測され、これがコラ画像でなければ、維新の選挙カーをリコール運動に貸し出した「証拠」ということになってしまいます。

加えて、この車両が政党の所有物であれば個人では勝手に動かせないはずで、党全体か愛知県の支部かといった差はあれど、何らかの形で維新が組織的に関わっていたことになります。

当該車両を維新が所有しているのか、リコール運動への貸し出しはなかったのかなど、この画像がイタズラのコラ画像かどうかも含めて検証し、結果を公表する必要がありそうです。

◆維新はリコール運動に組織的関与をしていたのか
結論としては、リコール運動の代表と懇意の維新の会の副代表(当時)がこの運動を熱烈に応援しており、「維新の選挙区支部長の予定候補が選挙協力関係にある河村市長の紹介でリコール運動の事務局長を務めている」ことは紛れもない事実

これらを吉村知事や田中事務局長の個人の問題であり維新はまったく関係ないと切り離せるかには疑問が残ります。

また署名偽造の際の名簿の出どころが問題となっており、リコール運動自体には河村市長の事務所から貸し出されたことを市長本人が認めています。

愛知県知事のリコールのため、名古屋市以外からも当然名簿が集まっていたと考えられますが、その名簿の中に愛知の維新から提供されたものがあれば、さすがに組織的関与と言わざるを得ないでしょう。またネット上での噂の段階に過ぎませんが、維新の選挙カーが貸し出されたのであればこちらも組織的関与ということになります。

ということで、「維新が組織としてこのリコール運動に関与したことはありません」との発言については、党の副代表が応援を公言し、予定候補が事務局長を務めることが党と関係ない個人的行為と呼べるのかという「解釈」の問題とも言えます。

また名簿や選挙カーについては今後の確認を待たねばならない状況となっており、現時点で「組織的関与はない」と断言する材料は見当たりません。

音喜多議員は維新所属の国会議員であり、その発言は当然党としての公式見解と受け取られてしまうもの。刑事事件として捜査中の案件でもあるため、最低でも吉村知事と田中事務局長の言質を取ったのちに発言すべきだったのではないでしょうか。

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