【コラム】「消費税19%」はいったい誰が言い出した数字なのか



ここ数日、Twitter上などに流れた「消費税19%」という数字。参院選と絡んで出されるケースが散見されましたが、いったい誰がこの数字を口にしたのでしょうか。


現在10%ながら、将来的にはさらに上がるとも言われている消費税。ですが具体的な数字や時期を挙げての消費増税の話は取り沙汰されていません。

そうした中で、Twitterを中心に消費税19%という数字が流れ、一時トレンドに上がるまでになりました。「岸田首相が言った」とするツイートも散見されましたが、公式報道や動画などのソースは一切ありません。

ではいったいどこからこの数字が出てきたのでしょうか。調べてみましょう。

◆2012年の経団連の提言
消費税19%という具体的な数字が公に示されたのは、今から10年前の2012年5月15日に提出された経団連の提言、「成長戦略の実行と財政再建の断行を求める ~現下の危機からの脱却を目指して~」です。

経団連は財政再建のなかの「社会保障と税の一体改革」において、少子高齢化が進む中でふくれ上がる社会保険の負担のあり方について以下のように主張します。

現役世代や企業への社会保険料負担を求め続けることは、社会保障制度の持続可能性を著しく低下させることになり、わが国経済・企業の活力は大きく削がれ、国内での雇用の維持・創出も困難となる。


そこから導かれる経団連の指針は社会保障を社会保険料ではなく税に担わせるというもの。

社会保障給付費の財源確保にあたっては、高齢化等に伴い増加する給付額を可能な限り抑制しつつ、現役世代や企業に偏ることなく、国民一人ひとりが負担を分かち合うことを基本とすべきである。

こうした観点から、社会保障給付費の財源は消費税が望ましい


として、ここで消費税が登場します。そして経団連は将来の見通しとして

社会保障制度、とくに高齢者医療や介護の持続可能性を高めるためには、2020年代半ばまでに、消費税率を10%台後半まで引き上げることが必要不可欠である。


と主張します。


ここでは19%という具体的な数字は出てきませんが、経団連は自らの作成した「改革推進ケースにおける政策パッケージ」の中の試算の前提として「消費税19%」を登場させています。

これは現状を放置した場合と経団連の考える政策パッケージを実行した場合の試算を比較する文脈で出されたもの。経団連の希望と考えて差し支えありません。

経団連はこれに加え、「法人実効税率を、2016~2025年度にかけて毎年1%ずつ引下げ、最終的には25%にする」ことも試算に盛り込んでいます。

◆2018年のOECD事務総長提言
次に消費税19%という数字が出てくるのは2018年4月13日のこと。

国際機関である経済協力開発機構(OECD)のグリア事務総長が麻生太郎財務相(当時)と会談した際に、将来的に日本の消費税率をOECD加盟国平均の19%程度まで段階的に引き上げる必要があると提言しました。


財務省はこの際、OECDが文書で19%という具体的な水準を示したのは初めてだとしています。

なおOECDは、10%への消費増税を半年後に控えた2019年4月15日、対日経済審査報告書を公表し、プライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化のために消費税率を最大26%まで引き上げる必要があると指摘しました。

この時点で内外の経済界から大規模な消費増税への圧力が存在していたことが分かります。

◆2021年の経済同友会提言
そしてコロナ禍まっただ中の2021年5月11日、経済同友会が経済成長や財政状況の2050年度までの試算と提言を公表しました。

試算では現状並みの経済成長では2050年度でも赤字のままであると指摘。国と地方の債務残高の対GDP比も悪化の一途をたどるとし、この比率を下げてゆくには消費税率を2026~34年度に毎年1%ずつ引き上げ、19%にする必要があると試算しています。


◆消費税19%は岸田首相の発言ではないが…
ということで、岸田首相が消費税を19%に上げると主張した事実はありませんでした。

ですが、経団連と経済同友会という日本を代表する「経済三団体」のうちふたつが、消費税19%への引き上げが必要という試算を出していることは紛れもない事実

これにくわえ、OECDという国際機関は19%どころか26%への増税が必要としているのが現状です。

これは自民党総裁としても、内閣総理大臣としても、いずれも決して無視できる提言であることは間違いありません。


夏の参院選で与党が過半数を維持すると、国政選挙が予定されない「黄金の3年間」とされる安定期が到来するとも言われています。

給与が上がらないままにコロナ禍やウクライナ侵攻、そして空前の円安の影響で物価ばかりが上がっていく状況ですが、消費増税には絶好のチャンスということになります。
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