【コラム】「職場がホワイトすぎて若手が失望」謎のキャンペーンが始まる



低賃金低待遇で貧困にあえぐ日本人が少なくない中、神経を逆撫でするようなキャンペーンが行われています。

それは「職場がホワイトすぎて若手が失望し、辞めたいと思っている」というなんともふざけたものです。

いったいどういうことなのか、調べてみました。


「ホワイト企業叩き」キャンペーンはどこから来たのか

問題のキャンペーンが始まったのは、日経新聞が12月15日付けで掲載した職場がホワイトすぎて辞めたい 若手、成長できず失望という記事です。


ホワイトすぎる職場で成長できないというのはいったいどういうことでしょうか?

記事は「『職場がホワイトすぎて辞めたい』と仕事の『ゆるさ』に失望し、離職する若手社会人が増えている。」と始まります。

あたかも若手がキツいブラック労働を望んでいるかのような書きぶりですが、果たしてそんなことがあり得るのでしょうか?

「ホワイト企業叩き」キャンペーンの元になった調査は?

この記事が下敷きにしているのはリクルートワークス研究所の職場が「ゆる」くて、辞めたくなるとした調査です。

この調査は「従業員数1000名以上の大手企業に入職した大学卒以上の1~3年目の新入社員」を対象としたもの


職場が「ゆる」くて、辞めたくなる|研究プロジェクト|リクルートワークス研究所より引用)

それによると、対象の若者のうち1/3を超える36.4%が「ゆるい職場か?」という質問に「あてはまる」か「どちらかと言えばあてはまる」と答えています。

そして 現在の職場で今後どれくらい働きたいかという問いに対し「2,3年は働き続けたい」と回答したのは職場が「ゆるいと感じる」新入社員最大で41.2%だとのことです。

この調査記事の著者はこの時点で「就労継続意識が低いことは裏返せば、離職意向が高いことである。つまり、ゆるい職場は若手の離職意向を高めている可能性がある。」と結論づけてしまっています。

論理学ではある命題の裏が真と限らないのは常識中の常識ですが、著者はここで致命的なミスリードを行っています。

「2,3年は働き続けたい」を「2,3年で辞めたい」と言い換えることは当然ながらできません

「こんなにゆるくてキャリアは大丈夫なのか」という不安のコメントも紹介されていますが、実際にどれだけ離職しているかというデータは一切示されていません。

「「ゆるくて不安になり転職する」という、新しい若手の離職理由」や「「会社のことはゆるくて好きだが、キャリアが不安なので、退職を考えている」という若手像」をこの調査から導き出すのは極めて拙速であると言わざるを得ないでしょう。

調査では「すぐにでも退職したい」と考える若者は職場を「ゆるいと感じない」と答えた人が最も多く29.7%にのぼりました。

著者は「これはいわゆるブラック企業、労働環境・条件の良くない状況で働いている新入社員の意向が反映されているものと考えられる。」としていますが、どう考えても若者の離職理由はこちらを重視すべきもののはず。

そこに目をつぶって「会社がゆるいと若者が離職する!」と問題視するのは本末転倒でしょう。

また当然ながら日本の企業の99%は中小企業であり、大企業に就職するのは幸運な1%に過ぎません。

大企業の若手のゆるさが下請けや孫請けのブラック労働によって支えられている可能性をまずは考えるべきではないでしょうか。

元調査では「ホワイト企業」という言葉は一切使われていない

さて、ここまではこの記事の問題を指摘しましたが、なんとこの記事では「ホワイト企業」という言葉は一度も使われていません。

しかし日経新聞の記事では職場がホワイトすぎて辞めたい 若手、成長できず失望とされています。

つまり元の調査では一言も言及されていないホワイトという言葉が突然使われ、「ホワイト過ぎる」職場のせいで辞めたいという論調に改ざんされています

当然ながら「ゆるい会社」と「ホワイト企業」は全く別物です。

新入社員がゆるく感じたというだけで、その会社がホワイト企業であるとはいえません。

たとえ正規雇用の新入社員にとっては「ゆるい会社」でも、非正規雇用者や下請業者にとっては極めて悪質なブラック企業も当然存在しています。

逆に言えば、ホワイト企業だからといってゆるい会社であるとも限りません。

新入社員を厳しく鍛えていても、パワハラやモラハラ、時間外労働などをさせなければ若者を成長させるホワイト着業といえるでしょう。

日経新聞は「ゆるい会社」と「ホワイト企業」を意図的に混同した上でホワイト企業叩きを行っていることになります。

当然ながら、若者はホワイト企業に失望しているわけではありません。

「今の職場は好きだが、このままで大丈夫なのかという焦りがある」「思ったほどビシバシ鍛えられなくて、自分からもっと指導してくださいと上司に言った」
職場が「ゆる」くて、辞めたくなる|研究プロジェクト|リクルートワークス研究所より引用)


などのコメントが紹介されていますが、若者は自らのキャリアやスキルが十分通用するものになるか、成長できるかという部分に不安を覚えています。

それではハラスメントが横行し、残業や休日出勤が当たり前のように強要されるブラック企業ならば成長できるのか、スキルを磨けるのかといえば答えは確実にNOです。

その代わりに心身を病み、過労死や過労自殺に追い込まれる可能性もあります。

テレ朝も「ホワイト企業叩き」キャンペーンに参戦

日経新聞に続きテレビ朝日も「ホワイトすぎる職場」去る若者急増 「ゆるいと感じる」背景に…“仕事の負荷低下”とした記事をアップしていますが、論調は同じです。


テレ朝はこうした背景として「長時間労働やハラスメントへの対策を講じる企業が増えたため、仕事の負荷が低下したことがある」としています。

仕事の負荷が長時間労働やハラスメントによって上昇していたこと自体が何よりの問題のはずですが、テレ朝はその点には一切触れません

長時間労働やハラスメントによる負荷の代わりに創造的な仕事を任せるなり、しっかり仕事を覚えて回してもらえば良いだけの話です。

こうした論調の影には「シバキ上げのブラック労働でなければ成長できない」という昭和的な考え方が見え隠れしていますが、当然ながらそれは完全な間違いです。

ホワイト企業のままで若者に成長してもらう方法を見いだせず、「若者はホワイト企業では離職する!」とシバキ上げれば2、3年後ではなく即座に離職されることを覚悟しておくべきでしょう。

それにしてもこの突然のホワイト企業叩きキャンペーン、これから大々的に喧伝されることになるのでしょうか?

どこの誰がこの論調に乗っかるのか、しっかり見極める必要がありそうです。

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