安倍首相「リーマン前に似てるとは言ってない!」→サミット記者会見で繰り返し言ってました



わずか4日前の全世界を前に行った自らの発言を「言っていないこと」にしてしまいました。詳細は以下から。


伊勢志摩サミットで安倍首相が商品価格や新興国経済に関する指標を並べた4ページの資料を配布した上で、出席した各国首脳に対して「リーマン・ショック前と状況が似ている」と指摘、世界経済が危機に陥るリスクがあると煽り、全方位から総ツッコミを入れられた件は先日BUZZAP!がお伝えしたとおり。

各国首脳はもちろん国内外の報道機関や市場関係者からもリーマン前の認識は否定され、野党からは「アベノミクスの失敗を隠して消費増税延期するための隠れ蓑にサミットと世界経済を使った」と批判が噴出していました。

その週の頭に発表された政府の月例経済報告でも「世界の景気は、弱さがみられるものの、全体としては緩やかに回復している」とされており、明らかに矛盾しています。

当然撤回されて然るべき発言でしたが、その代わりに行われたのは発言自体の否定でした。ロイター通信の報道によると、30日に国会内で開催された自民党の役員会の中で安倍首相は「私がリーマンショック前の状況に似ているとの認識を示したとの報道があるが、まったくの誤りである」と発言。「中国など新興国経済をめぐるいくつかの重要な指標で、リーマンショック以来の落ち込みをみせているとの事実を説明した」と弁明しています。

確かにサミットの討議の内容を一言一句確認することは不可能です。しかし、首相官邸HPにはサミット後に行われた安倍首相の「G7伊勢志摩サミット議長記者会見」の全文が掲載されており、そこでは繰り替えしリーマン・ショックの名前が登場します。長くなりますが当該部分を抜粋します。

最大のテーマは、世界経済でありました。

株式市場の下落により、世界では、この1年足らずの間に1500兆円を超える資産が失われました。足元では幾分か回復し、小康状態を保っていますが、不透明さは依然残っており、世界的に市場が動揺しています。

それは何故か。最大のリスクは、新興国経済に「陰り」が見え始めていることです。

今世紀に入り、世界経済を牽引してきたのは、成長の活力あふれる新興国経済です。リーマンショックによる経済危機が世界を覆っていた時も、景気回復をリードしたのは、堅調な新興国の成長。いわば、世界経済の「機関車」でありました。しかし、その新興国経済が、この1年ほどで、急速に減速している現実があります。

原油を始め、鉄などの素材、農産品も含めた商品価格が、1年余りで、5割以上、下落しました。これは、リーマンショック時の下落幅に匹敵し、資源国を始め、農業や素材産業に依存している新興国の経済に、大きな打撃を与えています。

成長の糧である投資も、減少しています。昨年、新興国における投資の伸び率は、リーマンショックの時よりも低い水準にまで落ち込みました。新興国への資金流入がマイナスとなったのも、リーマンショック後、初めての出来事であります。

さらに、中国における過剰設備や不良債権の拡大など、新興国では構造的な課題への「対応の遅れ」が指摘されており、状況の更なる悪化も懸念されています。

こうした事情を背景に、世界経済の成長率は昨年、リーマンショック以来、最低を記録しました。今年の見通しも、どんどん下方修正されています。

先進国経済は、ここ数年、慢性的な需要不足によって、デフレ圧力に苦しんできましたが、これに、新興国の経済の減速が重なったことで、世界的に需要が、大きく低迷しています。

最も懸念されることは、世界経済の「収縮」であります。

世界の貿易額は、2014年後半から下落に転じ、20%近く減少。リーマンショック以来の落ち込みです。中国の輸入額は、昨年14%減りましたが、今年に入っても、更に12%減少しており、世界的な需要の低迷が長期化するリスクをはらんでいます。

現状をただ「悲観」していても、問題は解決しません。私が議長として、今回のサミットで、最も時間を割いて経済問題を議論したのは、「悲観」するためではありません。

しかし、私たちは、今そこにある「リスク」を客観的に正しく認識しなければならない。リスクの認識を共有しなければ、共に力を合わせて問題を解決することはできません。

ここで、もし対応を誤れば、世界経済が、通常の景気循環を超えて「危機」に陥る、大きなリスクに直面している。私たちG7は、その認識を共有し、強い危機感を共有しました。

平成28年5月27日 G7伊勢志摩サミット議長記者会見 平成28年 総理の演説・記者会見など 記者会見 首相官邸ホームページより引用)



動画は以下から。

安倍晋三サミット「リーマンショック」連発し始めるまで閉幕5 27記者会見 - YouTube


ご覧のように、リーマン・ショックという言葉を繰り返し用いて現在の「世界経済の状況」をリーマン・ショック時と比較しています。安倍首相はこれを「事実を説明した」としていますが、それに留まらず世界経済の「収縮」を懸念し、「G7は、その認識を共有し、強い危機感を共有しました」とまで発言しているのです。

ここまで全世界が注目する公式の場で堂々と発言しておきながら「私がリーマンショック前の状況に似ているとの認識を示したとの報道があるが、まったくの誤りである」とするのであれば、いったいここでの発言は何だったのでしょうか?

自らが似ているとすら認識していないリーマン・ショックを繰り返し持ち出し、G7の首脳たちと世界経済の「収縮」への強い危機感を共有したのだとすれば(編集部注:実際には複数の首脳から否定されています)、それは最早デマの拡散でしかありません。

サミット議長国の内閣総理大臣であり、「最高責任者」を自称する人物が国際的な公式の場での発言での誤りを謝罪も撤回もせずに「言わなかった」ことにしてしまうのならば、その言葉にどれほどの重みがあるのでしょうか?

安倍首相は今年の4月にも、2012年に自らが総裁として戦った衆院選のマニフェストで「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP交渉参加に反対します。」とされていたにも関わらず国会で「TPP断固反対と言ったことは1回もございません」と発言した「前科」があります。

こちらはまだ4年前の話ですが、今回はたったの4日前の発言。ここまでころころと言うことを変えられてしまうのであれば、私たち国民は何を信じたらよいのでしょうか?また、消費税については「リーマン・ショック級、大震災級の事態にならない限り予定通り引き上げていくという基本的な考え方に変わりはない」と国会で発言していましたが、もしリーマンショック前に似ていないのであれば、消費増税延期の根拠はどう国民に説明するつもりなのでしょうか?

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安倍首相、消費増税再延期へ、サミットで経済状況リーマン級の危機と各国に説明 ワールド 最新記事 ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト


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