消費増税時の経済対策「キャッシュレス決済客のみ2%分還元」が完全に中小店を殺しに来ている



誰のための経済対策なのか、見れば見るほど疑問符が付きます。詳細は以下から。


◆中小店でのキャッシュレス決済のみ還元
政府が2019年10月の10%への消費増税に会わせて計画している経済対策が酷いことになっています。

それは中小店での商品購入時、キャッシュレス決済を行った消費者に購入額の2%分をポイントで還元するというもの。これをきっかけに同時に中小小売店でおキャッシュレス決済の導入拡大にも繋げる考えです。

2%分のポイント還元はクレジットカードや電子マネー、QRコードなどのキャッシュレス決済が対象。その中でも金融機関の口座から引き落とすタイプのカードやスマートフォンによる決済サービスに限って適用する案が有力で、期間は2019年10月から数ヶ月間に限る予定です。

具体的には2%の増税分をポイントを発行するカード会社などを通じて還元し、会社の負担分を国が補助する形となります。なお、制度設計が複雑になるのを避けるため、軽減税率が適用される食料品などの購入もポイント還元の対象とするとのこと。

中小の小売業と宿泊業・飲食サービス業は国内に120万超存在していますが、どこまで補助対象にするかは今後詰めるとされています。

◆「手数料の負担」という極めて大きな問題
今回の還元措置の対象を中小事業者の店舗に限るのは、増税で予想される消費の落ち込みの影響を受けやすいためとされていますが、むしろこれによって中小店が殺される可能性が極めて高くなっています。

中小店でキャッシュレス決済が広がらない理由としてはカードの運営会社に支払う手数料や端末設置に伴う負担が重いことが挙げられます。

これについては好調・串カツ田中が、あえて『キャッシュレス化』を進めない理由という記事の中で詳しく説明されています。以下、一部引用します。

リボ払いはその性質上、利用者が手数料を支払っていく形になるが、日本でクレジットカードのリボ払いを利用している人は、ほとんどと言っていいほどいない。コンビニでもスーパーでも一括で買い物をすることができる日本のクレジットカードは、利用者に手数料がかからずに決済ができる世界でも稀有な「チートアイテム」になっている。


つまり、「翌月一括払い」がメインの支払い方法となる日本のクレジットカード決済では事業者側が手数料を負担する事になるのです。

「増税で予想される消費の落ち込みの影響を受けやすい」中小店が2%ポイント還元狙いのキャッシュレス決済の客を受け入れるために端末を設置した場合、数%の手数料負担が重くのしかかることとなり、政府の目論見とは逆の結果を招きます。


必要な端末も配布する方針とのことですが、手数料の問題を解決しなければ焼け石に水でしかないことは言うまでもありません。

◆カードを作れない貧困層は対象外
なお、当然ながらクレジットカードやスマホを持っていない人などはこうしたポイント還元すら受けることができません。

職歴や収入などを始めとした様々な理由でクレジットカードを作れない人が存在しており、貧困層ほどクレジットカードの取得が難しくなることは周知のとおり。

また消費税率は逆進性が高く、税率が上がると低所得者ほど収入に対する食料品などの生活必需品購入費の割合が高くなることから、高所得者よりも負担が重くなることは以前から指摘されています。


つまり、このポイント還元は貧困などの理由によってクレジットカードやスマホを持てない、消費増税の影響を最も受ける貧困層には何の恩恵ももたらさないということになります。

◆これで儲けるのは誰か
政府・与党は対策を19年度予算案に盛り込む予定ですが、関連費用は数千億円規模になる可能性があるとのこと。

増税後の消費減退を回避し、増税前の駆け込み需要や反動減を抑えるとしていますが、わずか数ヶ月の経済対策のために使うこの金額がどれほどペイするものであるかは極めて疑わしいと言わざるを得ません。

また、当然ながらこのポイント還元のシステムの構築が政府から発注され、どこかの大企業が受注することになります。

さらに中小店で実際にキャッシュレス決済の導入が進めば、現状では中小店が血の涙を流しつつ手数料を払ってカードの運営会社を儲けさせることになります。

お分かり頂けたでしょうか?政府が今回出してきた経済対策は、増税の負担を最も受ける貧困層に最も届きにくく、中小店の支払うカード手数料を増やし、システム会社とカードの運営会社を儲けさせるだけに終わる「やってる感」の演出でしかありません。

先日BUZZAP!でもお伝えしたように、企業の内部留保が446兆で過去最高となる一方で労働分配率は43年ぶりの低水準となっており、小手先のポイント還元などで景気が回復することはありません。

企業で働く労働者が十分な賃金と将来を見通せるレベルの安定した雇用環境を得られなければ、個人消費は低迷を続けるだけです。

本当に個人消費を回復させて社会保障を充実させたいのであれば、消費増税は凍結もしくは減税とし、法人税の増税を行うしかありません。

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