最も取り締まるべき対象をスルーしながら、論文や記事の引用には足枷をはめる仕様となるようです。
◆ダウンロード違法化法案とは?
ダウンロード違法化法案2019年の通常国会に提出されるはずだった海賊版対策のダウンロード違法化を盛り込んだ著作権法改正案の通称です。
海賊版の漫画を多数掲載していた「漫画村」のようなサイトを規制するための法案のはずが、「スクショはNGだけど『漫画村』はOK」となってしまう致命的な欠陥が発覚。
自民党知財戦略調査会長の甘利明元経済財政担当が「政治論としての判断」などと主張して強固に法改正を推進していましたが、漫画家をはじめとした表現者や多くのファンらの大反対により頓挫していました。
問題となっていたのは対象が違法DLサイトだけではなく、全ネットユーザーだったこと。個人ブログやツイッターの画面でも、権利者の許可のないアニメの絵やイラスト、写真などのコンテンツが含まれていればダウンロードは違法となります。
ブログやツイートに載せられた歌の歌詞や小説の一節などを端末内でコピーして張り付ける「コピー&ペースト」も禁止となり、「スクリーンショット」も撮影対象が著作権を侵害していれば違法ダウンロードとなります。
一方で「ストリーミング型(オンラインリーディング型)の海賊版サイトの視聴・閲覧が違法にならない」ため、漫画村タイプの海賊版サイトを規制できないという本末転倒の極みとなっていました。
◆論文や記事・漫画の半分、4コマ漫画1コマでアウト
この大炎上の顛末を受けて2019年11月27日に開かれた文化庁の有識者会議では、これまでの権利者の許可無くネットに上げられた漫画や写真、文章といったコンテンツ著作権侵害物だと知りながらダウンロードする行為全てを違法化する方針を転換。
文化庁は著作権侵害物が付随的に含まれるスクリーンショットや、漫画作品のうち数コマのように分量の少ないダウンロードは違法としない案を議論のたたき台として示しました。
ですが2020年1月7日に行われた著作権法改正に関する検討会の第3回会合では急速に厳罰化へと舵が切られた模様です。
具体的な基準として、4コマ漫画のうちの1コマ、論文や記事、漫画1話の「半分程度」などのダウンロードは「軽微なもの」と認めず違法化しますが、パロディーなどの二次創作品については除外されます。
なお漫画作品のうち数コマや論文・記事の数行のように分量の少ないダウンロードは「軽微なもの」として容認されますが、「違法としない」とはニュアンスが異なる可能性があります。
また対策の実効性を高めるためとして、規制対象を海賊版サイト以外にも拡大。ツイッターやFacebookなどのSNSからのダウンロードについても規制されることになります。
さらに対象を著作物で利益を得るプロの漫画家やライターらに実害が及ぶような「著作権者の利益を不当に害する場合」に限定する案も出されましたが、「規制範囲を絞れば対策の実効性が失われる」と反対意見が噴出して頓挫しています。
まとめると、著作権者の意志や利益に関わらず、SNSを含めたネット上の全サイトからのダウンロードやスクリーンショットが対象となるということ。
そしてこのうち分量の少ないダウンロードは「軽微なもの」として容認され、合法扱いされるものの、分量が多くなると違法化されるということになります。
◆恣意的な取り締りへの懸念は消えず、しかも「漫画村」はスルー
注意が必要なのは、ダウンロードの分量に一定の基準は例示されているものの、この辺りの取り締り基準が極めて恣意的になる可能性があるということ。
例えばスピード違反では「10km/hオーバーまではセーフ」といった都市伝説がありますが、実際には法定速度を1km/hでもオーバーしたら違反です。ですが実際は15km/hオーバーしていても捕まるかは運次第である事はドライバーならばご存じのとおり。
このように取り締まりたい時に規制当局が狙い撃ち的に取り締りを行える便利な法律として成立する可能性があるということ。これは改正風営法が「遊興」という概念の導入によって半ば骨抜きにされたのと同じ危険性があるということになります。
「インターネット利用を萎縮させる」という大きな批判を受けての方針転換のはずでしたが、蓋を開けてみるとやはりインターネットの利用者がスクショやコピペが違法である可能性を常に背負わされることになりそうです。
具体例を見ても、公開されている論文をダウンロードすることが違法な理由も不明な上、実際にはブラウザに表示された時点でダウンロードされているため、閲覧自体もグレーゾーンとなるという極めて不可思議な基準となっています。
また、著作権法改正案には海賊版サイトに誘導する「リーチサイト」の規制も盛り込まれる予定ですが、やはり肝心の漫画村タイプの「ストリーミング型(オンラインリーディング型)の海賊版サイトの視聴・閲覧」は違法化されず、野放しにされている状況です。
結局のところは大炎上以前と本質は変わらず、単に「軽微なもの」をお目こぼしするだけの内容ということになりそうです。もちろん実際に法案として提出されているわけではありませんが、今後どのように展開するのか、しっかり経緯を見守る必要があります。
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