AIで他人の描きかけの絵を完成させ「先に投稿したからオリジナル」と主張する自称絵師が登場、当然物議に



MidjourneyやStable Diffusionといった描画AIが公開されて以降、AIによる絵画やイラストの作成がトレンドになっていましたが、極めて象徴的な事件が起きてしまいました。


描画AIのトレンドで湧き上がる問題

2022年8月にMidjourneyやStable Diffusionといった描画AIが全世界に公開され、多くの人が無償で利用できるようになりました。

これにより、いくつかのキーワード(呪文とも呼ばれます)を入力することでこれまでになかったような絵画やイラストを生成できるようになりました。

当初はシュールレアリスムの絵画のような画像が多かったものの、アニメやマンガ調のイラストも自由に生成できるようになり、イラストレーターや絵師らからは不安や危機感の声が上がっていました。

「人間がAIに仕事を奪われる」という、ラッダイト運動時代を思わせる状況が生まれていましたが、ここで非常に象徴的な事件が発生してしまいました。

AIに生成させた「作品」をオリジナルと主張する自称絵師が登場

問題となったのは、フリーランスのイラストレーターを自称するTwitterアカウントのmusaishという人物。

この人物の、韓国人絵師AT氏へのリプライが大きな物議を醸しています。


魚拓

musaishはAT氏の作品に対し、NovelAIを用いた自らの作品の画像を提示します。そして驚くことに以下のように主張します。

「あなたはファンに盗作されたと嘆いてみせるかもしれないけど、私の方が5~6時間先に投稿しているからね。それにこの手の絵はすぐに描き上げられるでしょう。AIの画像を参考にしたのは良いけど、それを認めるかせいぜい注目を浴びないように投稿してもらえるかな」

実際のところ、AT氏はライブストリーミングで絵を描いているところを公開していました。

musaishへのリプライでは早速AT氏の描画が先に行われている様子がスクショ付きで投稿されています。



このライブストリーミングをスクショしてNovelAIに掛けたのだという指摘も。



実際に、極めて簡易的なイラストをNovelAIに読み込ませるだけで、このような「作品」を生成することが可能です。





他人の作品を用いたとしても私的に楽しむだけであれば大きな問題にはならなかったかもしれません。

しかし、他人の描きかけの絵をAIに掛けて自分の「作品」を生成し、それをオリジナルと主張して本当のオリジナルの絵師を攻撃するのであれば話は違ってきます。

AIの生成した作品の著作権と今回の問題について

著作権の扱いは国によって異なり、今後AIが主体となって生成した「作品」の著作権の扱いも異なってくることになると考えられるため、一概に論じることは困難です。

例えば日本では2016年に内閣官房知的財産戦略推進事務局が「人工知能が自律的に生成した生成物について、現行制度上、権利の対象とは考えられていない。」としており、これに変わる判断はなされていません。


国境を容易に越えてやり取りの行われるネット上でどういった判断が妥当となるかについても今後大きな議論が起こると考えられます。

しかし、問題はmusaishがれっきとした人間の絵師の制作中の作品をAIに掛けて自分の「作品」としたこと。またそれをオリジナルであると主張したことです。

描きかけの絵からAIを用いて一瞬で完成した「作品」をオリジナルよりも早く投稿し、それを根拠にオリジナルと標榜するのは当然ながら盗作に他なりません。

もしAIに生成させた「作品」を人間が作成したと主張したら?

今回はmusaishがAIを用いていたことを最初からオープンにしていました。しかし深刻な問題は今後同様の行為を行って「自分が描いたのだ」と主張する人物が現れる危険性です。

AIを用いれば描きかけの作品どころかちょっとしたラフなどからも極めて美麗な「作品」が生成できるため、ぱっと見にはどちらがオリジナルか分からないといった状況が生まれる可能性もあります。

当然ながら、そうした手段を特定の絵師に対する攻撃として用いられる危険もあります。

musaishは2022年10月に開設されたばかりのアカウントで、AT氏への攻撃のためのものか、いわゆる釣りのためのもののどちらかと考えられます。

今後同様の手法での盗作や攻撃が行われるのであれば、「人間がAIに仕事を奪われる」以上の事態となりそうです。

なお、記事執筆中にmusaishはアカウントを削除しました。

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