タイでの大麻の解禁はどのようにして起こったのでしょうか。そしてどのような経緯を経て、現状はどうなっているのでしょうか。
バンコクというタイのど真ん中でその経緯を目の当たりにし、自らも大麻関連ビジネスを営む方にインタビューを行いました。
日本からでは見えないタイならではの事情、そして大麻産業の今後についても伺いました。
最初の外国人の資格保有者で、現在バンコクで大麻とクラトム(編集部注:向精神作用のある植物、タイでは合法)のショップ「OG Kratom」を運営する日系アメリカ人のジェイクさんにタイでの大麻解禁からの流れと現在の状況を伺いました。
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深海:
大麻が解禁された時から今に至る状況を教えてください。
ジェイク:
2022年6月9日に大麻が解禁されたけど、発表日の前までタイに住んでいる人はどうなるか知らなかった。
2022年1月半ばに「6ヶ月後に解禁される」と言われてはいたが、タイでは政治の方針はコロコロ変わる。
実際に解禁日の翌日に「Highland」の最初のディスペンサリー(販売店)がオープンしたのを見てみんなびっくりした(編集部注:Highlandはタイの「High Times」のような会社とのこと)。
最初はただ大麻を持ち歩いて吸える感じかとは思っていたけれど、みんなまさか店で売れるとは思っていなかったので準備していなかった。
深海:
それが去年の6月だからまだ8ヶ月余りしか経っていないんですね。その前に医療大麻は解禁されていたと思うのですが、そうした人々が参入してきた訳ではないのですか?
ジェイク:
最初は大麻好きがビジネスをやると思ったけれど、大麻に全く興味がなくて金儲けをしたい人が誰も彼も大麻を売ろうとしてめちゃくちゃになってる。
解禁当時は医療を含めて大麻を扱う店はまだあまりなかったけれど、解禁から2ヶ月ですごく増えた。毎日新しい店ができていた。
100件くらいかと思っていたら2ヶ月で1000件くらいになって凄いと思った。今は1万件を超えてコンビニより多いっていわれてる。
深海:
許可を得ている人で10000件ということですよね?カオサンロードで大麻の屋台を出している様な人も許可を得ているんですか?
ジェイク:
警察はカオサンロードで2回くらい摘発してるけど、屋台の人はほとんど無許可だと思う。最近は外国人の多いトンローやナナで摘発していて、やはり無許可のところが多い。ちなみに摘発されると数万円の罰金の上に商品を全部取られる。
解禁後はみんな店を作ろうとして大麻を買いまくったからタイ産のものはなくなってしまった。その時カリフォルニアやカナダからたくさん違法に持ち込まれて、タイ産よりも安くなるくらいだった。
今はカリフォルニアもカナダも大麻を作りすぎて、税金が掛かるから燃やしてしまったりしている。だからだぶついた大麻をタイに送ろうとしていた。
個人的にはタイの生産者をサポートしたいからタイ産の大麻を扱っているが、海外からの大麻は安いからと扱っている店もいっぱいある。
Cookiesって店が最初は8月くらいにタイに店を出そうと思って、コンテナで大麻を持ち込んだけれど、違法とされたので出店を見合わせた(編集部注:Cookiesはアメリカ合衆国の有名大麻ブランド)。
最近バンコクに店舗ができたけれど、今そこで売っているのは全部タイで育てた大麻。Cookiesが最初の時にカリフォルニアから持ち込んだことで、同じように輸入しようとする人が増えた。
今タイでは食用大麻製品は違法だけど、カリフォルニアやカナダから来たクッキーやグミなどが売られている(編集部注:THC濃度が0.8%以下の低いもののみ認められている)。
深海:
食用の大麻製品は違法なんですね。
ジェイク:
はい、オイルやワックスのような精製した大麻加工品も禁止で、解禁されたのはそのままの大麻草だけ。でも海外からは大量に入ってきてる。
深海:
それはグレーゾーンではなくてダメ?
ジェイク:
ダメだけどお店で売ってるところは結構ある。ルールはあるけどみんな守ってない(笑)。
深海:
それはなんというか、いかにもタイらしいゆるさですね。
ジェイク:
そう、とてもタイっぽい。でもタイに来て11年経つけど、5年くらい前からみんなYouTubeなんか見てしっかり育てようとするようになったので、タイ産の大麻もだいぶ良くなった。
種は輸入できるから、多くはアムステルダムなどから来ている。最初は1人10本まで栽培できるとされたけど、今は1人20本栽培できるようになった。
深海:
規制やルールは変わってきていますか?
ジェイク:
新しいルールでは、今はお客さんに売るときはお客さんの情報を書かなきゃいけない。IDやパスポートを控えて誰がどれだけ買ったか追跡されるということになっている。またどこの農場で栽培されたかなどの情報も必要になり、厳しくなった。
観光客が多いところは厳しいとされているけれど、ちゃんとやっている人はあんまりいないと思う。めんどくさいし難しいし。
本当はジョイント(大麻たばこ)も売ってはいけないけど売ってるところはたくさんある。大麻草もTHC濃度の上限もオープンな感じ。ジョイントを売っているようなところはあまり良くなくて、適当に育てた安くて売れないものを使っているからおすすめできない。
深海:
ビジネスとしての現状はどうでしょうか?
ジェイク:
実は今は大麻はあまり売れなくなってきていて、アンダーグラウンドだった頃よりも値段が2倍くらいに上がっている。
アンダーグラウンド時代は1gで400バーツ(約1600円)から500バーツ(約2000円)くらいだったけれど、今は800バーツ(約3200円)から1000バーツ(約4000円)くらい。
今は大麻がたくさんあってだぶついてるから仕入値は落ちているけれど、お店での小売価格は高くなっている。自分は400バーツ(約1600円)くらいで売っているけれど、それが適切な値段だと思っている。
(編集部注:売れなければ安くなりそうなものですが、店舗のテナント料などの諸経費をまかなうために値段を上げることで対応しているケースが多いとのこと。本当だとすれば日本の常識とはかなりかけ離れた発想です。)
今の店は観光客向けのところを中心にとても高いから、タイ人はそういう店では買わない。知り合いなどからもっと安く買っている。タイは今の調子だとカリフォルニアのように「ものがありすぎてさばけない」状況になると思っている。
深海:
作りたい人の方が多いんですね。
ジェイク:
今まで作ったことのない人が趣味で作るようになっている。また農家が他の作物の代わりに大麻の栽培を始めている。
深海:
去年政府が大麻の苗を100万本くらい政府が配っていましたよね。日本でも話題になりました。
ジェイク:
ええ、あれは驚きました。大麻関連で収監されている囚人も2000人か3000人釈放されました。
深海:
すごいスピードですね。数週間レベルで風景が変わっているような。
ジェイク:
今は日本人でもお店やっている人いるし、アメリカやヨーロッパも含めて世界中からタイに来てる。ただ外国人はタイでビジネスをするのは難しい。外国人が会社を作るには51%タイ人が株を持たなければいけない。
だからビジネスビザではない形でビジネスをやっている人が多い。自分は会社を作って税金も払っているけれどね。何かあったり警察が来た場合はちょっとお金を渡してなんとかするようなこともたくさんある。
深海:
そういうところもいかにもタイって感じですね。今後の大麻ビジネスの展望はどうでしょうか?
ジェイク:
なぜかタイは大麻の加工品に厳しくて、エキスなども違法。大麻自体は良いけれど他の大麻由来のものはダメだとしている。
だから先のことが予想できなくて1年後、半年後、1ヶ月後に何が起こるか分からない。急にいつも変わるから大麻の商売をする人はストレスがある。お金をつぎ込んで店を出しても回収できるのかって。
香港ではCBDがダメになったけれど、それを見るとこちらで似たようなことが起こらないかと怖い。タイでも大麻を売るならお店じゃ無くて薬局で売らなきゃいけなくなるという噂が出たこともあった。この先どうやって商売していけるかまだ見通せない。
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ジェイクさんの話を聞いていくと、大麻解禁から現在に至る流れも現状も極めてタイらしいおおらかさというかいい加減さが存分に染み渡っていることが分かります。
これはかつてタイを旅したことのある人にはお馴染みの「微笑みの国」と呼ばれる開放的なゆるさそのものともいえるでしょう。
ルール的にグレーゾーンだろうが実はダメだろうがあまり気にせず、摘発されてもめげることなく、規制の穴や隙を縫うようにビジネスを進めていく。
そんなお国柄というか連綿と続いてきた社会のあり方が、行き当たりばったりで行き先の見えないこの国の大麻産業を支えているように見受けられました。
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