「ジェネリック品薄」回復まで3年も、不祥事と出荷調整続き物流倉庫火災も追い打ち



高齢化の進む日本でジェネリック(後発)医薬品を中心に、薬が手に入りにくい状況がじわじわと広がっています。

薬局に行っても必要な薬を処方してもらえない、そんな問題がすでに始まっていました。詳細は以下から。

◆全医薬品の2割が品薄に、回復まで3年か
朝日新聞社が、ジェネリック医薬品を中心とした約3100品目の薬が品薄になっていることを報じています。


日本で公的医療保険の対象の医薬品は約1万4000品目のため、2割超の供給が滞っていることになります。

厚労省はこれに対し、医薬品業界団体宛てに増産を呼びかける通知を出しました。ですが増産には限界があるため、全品目が再開し、安定供給されるようになるには2~3年かかる見通しとのことです。

◆原因は相次ぐ不祥事と出荷調整
この問題の大きな原因となったのは、福井県のジェネリック医薬品メーカー小林化工「爪水虫の薬」に睡眠導入剤が誤混入し2人が死亡、計245人が健康被害を受けた事件です。

これ以降都道府県の査察が強化され、ジェネリック大手の日医工を筆頭に、北日本製薬長生堂松田薬品工業の4社が業務停止命令を受ける前代未聞の事態となりました。


この煽りで同業他社に注文が殺到。もともと多品種の薬を緻密に計画して生産していた各企業が即座に対応できるものではなく、既存の顧客への安定供給を重視して出荷調整を行う事態に。

◆物流倉庫の大火災も追い打ち
これに加え、2021年11月22日には大阪市の人工島、舞洲の物流倉庫が鎮火まで5日かかる大規模火災を起こしました。


この物流倉庫は複数の医薬品メーカーが利用しており、沢井製薬大原薬品工業は少なからぬ自社製品が焼失したことを伝えています。

もちろん薬品自体に加え、大阪という西日本の物流の一大拠点を失ったことも今後の供給に影響を与えることは間違いなく、文字通り「泣きっ面に蜂」の追い打ちとなっています。

◆社会保障費削減目指す「薬価引き下げ」という背景
ここまでだとジェネリック各社のずさんな経営と不幸な事故とされそうですが、その背景には社会保障費削減を目指し、政府の打ち出してきた薬価引き下げ政策があります。

多くの医薬品は保険が適用されるため、高齢化と共に処方される薬が増えれば増えるほど、国の負担も膨れ上がることになります。

このため政府は安価なジェネリック医薬品の使用を促進し、2020年9月までの使用割合80%を掲げました。


加えて菅首相は2020年10月の所信表明演説で、これまで2年に一度だった薬価の改定を毎年行う方針を表明。2021年4月には1万7600品目の薬品のうち約7割が価格引き下げとなりました。

こうした中で医薬品の原価割れも発生し、利益の出せない各製薬会社は厳しい運営を迫られることになります。

上記の小林化工の睡眠導入剤誤混入事件がルール違反の「ワンオペ」の際に発生したことを考えても、現時点で安全を第一に操業できない状況が少なからず存在していることが分かります。

◆医薬品の品薄は今回だけで終わらない可能性も
医療費を中心に増え続ける社会保障費の問題が、高齢化と共にさらに膨らんでいくことは間違いありません。


厚労省の薬価引き下げ政策も一面では理解できるものですが、その先にあるのが医薬品の安全性や安定供給の崩壊という、命に関わる事態であることも事実です。

たとえ今回の品薄が2~3年で落ち着いたとしても、薬は安くいつでも手に入るというこれまで常識が通用しなくなる日は遠くないのかもしれません。

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