今さら「日本は手遅れになる」と安倍首相が明言した少子高齢化問題、子育て世代への過酷な仕打ちの数々をまとめてみた



これまで5年間政権を担当してきた安倍首相の衝撃発言が話題です。詳細は以下から。


10月9日にTBS系の「NEWS23」で放送された党首討論の場において、安倍首相の少子高齢化について衝撃的な発言が行われました。

◆党首討論での衝撃発言
問題となった発言は共産党の志位和夫委員長が、安倍首相が森友学園・加計学園問題を「選挙で丁寧に説明する」と以前発言したにも関わらず一言も触れていないことに対して「説明する意思はないんですか?」と追求した際の返答。

安倍首相はいわゆる「もり・かけ問題」に時間を割けない理由として「北朝鮮問題の緊迫化」と共に挙げたのが「少子高齢化問題が12月までにパッケージをまとめないと手遅れになる」という衝撃的なもので、発言全体は以下のようになります。

少子高齢化、これどうやって乗り越えていくか。とっても大きな問題であってですね、この12月にそのパッケージをまとめたい。12月にパッケージをまとめなければこれ手遅れになりますから。




2012年末から現在まで5年に渡って政権を担当してきた行政府の長であり、最高責任者を自称する安倍首相が、党首討論という場で行った正式な発言である以上、この「日本の少子高齢化問題はあと2ヶ月程度で手遅れになる」という内容は決して軽く扱えるものではありません。これはどういうことを意味しているのでしょうか?

◆少子高齢化問題が手遅れ目前なのはなぜ?
今回安倍首相は国難突破解散を行う理由の2つに挙げたのが「北朝鮮の脅威」と「消費税の使い道の変更」でした。

いずれについても矛盾に満ちており、まったく整合性が取れていないことをBUZZAP!では解散前から指摘してきましたが、その中でも教育の無償化を含めた社会保障の充実は叫ばれていたものの、少子高齢化問題が手遅れになるリミットが今年の12月であることは一言も触れられていませんでした。

もちろん少子高齢化問題は現実に日本に存在する多くの問題の中でも最も根源的なもののひとつであり、最近になって急に言われ出したものではありません。団塊世代が定年を迎え、やがて後期高齢者になることは時間が流れている以上当然のことですし、出生率の低下も1975年に2.0を下回って以来、低水準から回復できていません。つまり、ずっと分かっていたはずのこと。

であれば、目の前の「とっても大きな問題」を解決する責任があるのは間違いなく行政府の長である安倍首相その人。そして5年に及ぶ長期政権の「最高責任者」である以上、この問題が解決に向かっていない責任は首相本人にあると言わざるを得ません。では安倍政権はこれまで少子高齢化問題にどのような姿勢で臨んできたのでしょうか?育児、教育、社会保障などについておさらいしてみます。

◆安倍政権が少子高齢化問題に対して何をしたか
・高校無償化や子ども手当の縮小および廃止、「軍事費に回すべき」と主張も
まずは第2次安倍政権発足前、民主党政権が行った高校授業料の無償化を「理念なき選挙目当てのバラマキ」と批判して2014年に廃止。910万円の世帯年収の所得制限を掛けて高等教育無償化の理念を大きく後退させてしまいました。

また、民主党政権のおこなった子ども手当に対しても2010年の保守系雑誌「WiLL」での対談で「子育てを家族から奪い去り、国家や社会が行う子育ての国家化、社会化だ。これは実際にポルポトやスターリンが行おうとしたことだ」と批判して廃止に追い込んでいます。

実際に稲田元防衛相は民主党政権時代に2011年3月の雑誌「正論」での対談で財源のない子供手当を付けるぐらいであれば、軍事費を増やすべきと述べていました。

今、防衛費は約4兆6800億円、22年度予算でGDPの1%以下です。民主党が21年衆院選で約束した子ども手当の満額にかかる約5兆5000億よりも少ない。この子ども手当分を防衛費にそっくり回せば、軍事費の国際水準に近づきます。自分の国を自分で守ることを選ぶのか、子供手当を選ぶのかという、国民にわかりやすい議論をすべきでしょうね。

【参院予算委詳報】蓮舫氏「逃げないで」「恥ずかしくないですか」「気持ちいいぐらいまでの変節」と安倍首相や稲田朋美防衛相を猛口撃 - 産経ニュースより引用)



・子どもの貧困対策は民間に丸投げ、子育て給付金も廃止
その後も特に育児や教育の分野で安倍政権の方針は少子化対策とは真逆に走り続けます。

子どもの貧困対策として、安倍首相らが発起人となって2015年10月に立ち上げられた民間基金の「子どもの未来応援基金」は2ヶ月でたったの300万円しか寄付が集まらず、国の未来の掛かった問題なのだから国が責任を持って対処すべきだという大きな批判が上がりました。


子どもの貧困対策については2016年にもツイッターで「日本の未来を担うみなさんへ」という安倍首相のポエムが掲載され、その中でも行政府の長としてなんら子どもへの約束を行わず、むしろ「こども食堂でともにテーブルを囲んでくれるおじさん、おばさん」を始めとした民間人に子どもの手助けを丸投げしたことにも批判と落胆の声が溢れました。


また、前回の消費税増税に関して行われた軽減税率の議論の中では、その軽減税率の財源1000億円をひねり出すために「子どものいる低所得者世帯への給付を削減すること」が提案され、さらには軽減税率が決まった途端に2014年の消費税8%への増税にともなって導入された子育て給付金も2016年で廃止されてしまいました。

その後2016年5月には安倍首相が伊勢志摩サミットで「リーマン・ショック級」の事態が発生したと主張したために増税は延期されましたが、消え去った子育て給付金が復活する気配はどこにもありません。

・待機児童問題は未解決、小中学校の教師も削減、大学の学費問題は深刻化
教育についても現在進行形で深刻な事態が起こっています。「保育園落ちた日本死ね!!!!」ブログに始まる待機児童問題、その原因となる保育園不足と低賃金低待遇に由来する保育士不足は未だに解消されていません。

小中学校においても、2017年7月にはNHKが全国の公立の小中学校の教員数が、2017年4月の時点で定数よりも700人以上不足していること、そして一部の学校で計画どおりの授業ができなくなっていることを報じています。それでも歳費削減のために小中学校の教師数の万単位での削減を求める方針は変わっていません。


大学に目を転じれば、国立大学の学費は現在でも非常に高額になっていますが、今後も2030年頃までに40万円近く値上げされる方針です。

また、奨学金を装った学資ローンによって大学を卒業した若者が数百万円の負債を背負わされる問題について、ようやく2017年になって給付型奨学金の創設に重い腰を上げましたが、財源として国庫からの積立金に加えてなぜか民間からの寄付を財源に運用することが盛り込まれまれています。

Photo by vera46

・非正規雇用拡大および長時間労働を合法化、若者の生活をより貧しく不安定に
さらに、子育て・教育を始めるスタートラインに至るための重要なプロセスである恋愛・結婚・出産に踏み切れないのは若者の貧困化が大きな理由であるという調査結果がでています。

Photo by Philippe Milbault

恋愛をして結婚・出産に至るには大きな責任が伴いますし、一定のお金と将来的な見通しも必要です。つまり「ずっと非正規雇用のままで突然雇い止めされたら?」と考えながら責任ある結婚という行為に踏み出すのは難しいですし、「ブラック企業で月に150時間以上サビ残させられて休みも取れない」という状態で婚活をするのも無理な話。

結婚・出産が可能な世代が将来性のある仕事に就き、恋愛ができるだけの十分なお金と時間を持てるような社会環境を整備する必要があるはずなのですが、残念ながら低賃金が蔓延する非正規雇用4割を超え、2017年3月には過労死ライン超えの残業100時間が合法化されるなど、状況はこちらも少子化対策とは真逆の方向に。

もはや若者の結婚、子育てを阻害し、日本という国そのものを立ち行かなくするための百年の計ではないかと疑いたくなるレベルです。

◆まとめ
驚くほど長いリストとなりました。ここでは主に少子化対策にスポットを当てたため、介護問題を始めとする高齢化問題にまでは触れられませんでしたが、それでも「とっても大きな問題」で「12月にパッケージをまとめなければ手遅れ」になると自ら明言する少子高齢化問題に対して安倍政権が何をしてきて、何をしてこなかったのかを俯瞰することはできるでしょう。

しかし、今までやってきたことを省みれば省みるほど「12月にパッケージをまとめなければ手遅れ」という言葉はあまりにも空虚で、自分たちが何もしてこなかったことを棚に上げた上で国民に「時間がないから」と自分たちを支持するよう迫る、あまりにも無責任な内容と言わざるを得ません。

また、2/3を超える圧倒的多数を誇り、いかなる方針であろうと政権与党の目指すままに推し進めることができるにも関わらず、少子高齢化問題に対して何一つ有効な対策を取ってこなかったどころか、少子高齢化を推し進める政策ばかりを選んできたことを、一度でも与党が反省するようなそぶりを見せたことがあったでしょうか。

北朝鮮の危機を訴える一方、臨時国会で何ひとつ議論も行わず解散して650億円の税金を使って総選挙を行い、緊急の課題についての議論を1ヶ月近くストップさせるという言動不一致極まりない状況となる中、今さら取って付けたかのように少子高齢化の問題を訴える与党。いくらなんでも国民を馬鹿にしすぎている感は否めません。

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